夕野かのんの書斎

皆さんこんにちは、夕野かのんです。小説書きます。

差し込む光、光合成(オリジナル)

 あの少年も、気付けば高三になっていた。彼自身、今では当時の自分が相当無理をしていたことを理解しているし、二度とあんな思いをしたくない、と思っている。だからこそ、今では自分の好きなことに蓋をして、誰かに合わせて自分の趣味を作り変えよう、とはしていないし、自分に正直に生きよう、と好きなことは声を大にして「好き」と伝えている。
 青年は所謂ジャニオタだ。関ジャニ∞安田章大が好きで、CDやDVDだけでなく、テレビやラジオ、雑誌など、事細かにチェックしている。
 きっかけはたまたま観た音楽番組。反則級の笑顔に目を奪われた。当時の彼にとって、その笑顔は直視できない程、眩しかった。だが終始幸せそうな彼から、自分とは違いすぎる彼から、目を離せず、ドンドン興味を持っていった。そして彼自身が気付かぬ内にファンになっていた。
 青年自身がファンになったことに気付くと、彼のお陰で自分が今、凄く幸せだ、と思う感覚、自分が作り上げた偽りの趣味の呪縛から解き放たれた感覚、世界に色が戻った感覚がブワッと風のように心を通り抜け、鳥肌が立つと同時に、ポロッと一筋の涙を零した。

     *

 今、青年は近所に咲く紫陽花を見ただけで、星が綺麗なだけで、雨粒がキラッと光っただけで、ふわりと柔らかく、優しい笑顔を見せるようになり、表情も今まで以上にカラフルに色付いている。
 そして青年は地元の遊園地に就職したい、と思うようになった。
「今度は僕の笑顔で誰かを幸せにしたい。その一瞬だけでも嫌なことを忘れてほしい。僕も彼みたいになれるかな、なれるといいな」
 そう思いながら彼―安田快登―は大好きなオムライスの最後の一口を口に運んだ。