記号の羅列の中の君
昨日、大物俳優が亡くなった。
僕は彼の名前を知らない。ただ、ドラマとか、映画とか、いつもテレビを点けると、何かしら見かける人だった。
彼の死をニュースで見たとき、僕は何とも言えないことを思った。
「あー、この人の名前は、こんな文字の形だったな」
これだけ。これだけだった。
君たちは、「マジかよ」「死ぬの早い」「好きだったのに」、ってありきたりなことを言っていた。
でも、こんな感想も、当日だけだった。一日、時間が過ぎただけで、君たちの感想の色も変わっていった。
そう、彼が亡くなったことに対し、自分の幸せは彼に悪い、などと言い始めたのだ。
まるで、彼が君たちの幸せを奪っていく、悪者みたいな言い方。僕は無性に腹が立った。
僕たちは、残念ながら、「生」の世界しか知らない。何故なら、それは、僕たちが、今、生きているから。今、死んでいないから。
「死」の世界なんて知らないし、体験したこともない。そんな僕たちが、「死」の世界へ進んでいった人々に、可哀想、なんて言っても良いものだろうか。
ババ抜き、と言うカードゲーム。最後までジョーカーを持っていた人の負け。
でも、このゲームの敗者も、見方を変えれば、最後までジョーカーを持っている唯一の人物と言えないか?君たち僕たちは、「唯一」と言う言葉が好きではなかったか?
ジョーカーを最後まで持っている世界を知らない僕たち。「死」の世界を知らない僕たち。そんな僕たちが、彼らに何が言えて、何を思えると言うのだろうか。